2015年までウルグアイの第40代大統領を務めたホセ・ムヒカ氏。英BBCが「世界でいちばん貧しい大統領」と報じたことで、一躍世界の有名人に。大統領報酬の9割近くを慈善団体に寄付していること、また自らは、長年住み慣れた質素な農場に起居し、わずか1,000ドル程度の生活費で暮らしていることが、大きな話題となりました。
そもそも、BBCがムヒカ氏に注目したのは、2012年6月に開催された、国連の「持続可能な開発会議」における、彼の演説がきっかけでした。各国の要人が、環境危機の現状を憂いながらも、当たり障りのない演説を繰り返すなかで、彼は先進諸国主導の大量消費社会が生み出す諸悪を、痛烈に批判します。「社会が発展することが、幸福を損なうものであってはならない」という力強いメッセージは、SNSなどを通じてたちまち全世界に拡散され、大きな共感の渦を巻き起こしたのです。
日本の放送局でも、大統領を直接取材する企画が立ち上がり、それを任されたのが、当時まだ駆け出しのドキュメンタリー・ディレクター、田部井一真氏でした。今回ご紹介する映画『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』は、2015年に敢行した大統領へのアポなし初取材から、ムヒカ氏の哲学や人柄に心酔して、ムヒカ氏を日本に招聘するまでを描いた、田部井氏の映画初監督作品です。
当時の国策であった、貧しい人たち向け供給住宅の建築現場で、田部井氏は運よく大統領に遭遇。多くのファンやメディアにもみくちゃにされながらも、日本からやって来たことを告げる田部井氏に、大統領の目が輝きます。そして、彼の口から思わぬ言葉が。それは日本の歴史文化と、先の大戦の後に、驚異的な復興を成し遂げた日本国民への、熱い賛辞でした。
田部井氏は、その後の取材を通じて、ムヒカ氏と日本人との間に、深い絆が存在することを知ります。それがムヒカ氏の、清貧を好み、晴耕雨読を実践することのルーツにつながっているのだと。
のちに田部井氏は、ムヒカ氏を日本に招待します。その目的は、氏と日本の若者たちとの対話。そして、ムヒカ氏が熱望していた広島巡礼。彼には、今の日本と若者たちが、どう見えたのでしょうか。
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