四月になり、多くの企業や官庁が新年度を迎えました。
それにあわせて、ついこの前まで学生であった新社会人も、「働く世代」の一員として、出発地点に着いたわけです。このひと月は、慣れない職場生活で、さまざまな思いを抱いたことでしょう。既にうんざりしている人も、意外と多いのかも。
今回はそんな人たちへのご参考に、私のダメ新人時代からの転機となった、当時の上司との思い出について触れたいと思います。
平成四年、音楽卸の専門商社に新卒社員として就職した私は、最初の二年間を商品の出荷担当として従事しました。大変忙しい職場で、深夜残業や休日出勤は当たり前。体調を崩したりもしましたが、諸先輩方に恵まれて、辞めたいと思ったことはありませんでした。
本当の試練は、三年目にやってきました。望まない営業職に配属されてからは失敗の連続。直属の主任(苦手なタイプでした)からも、「伝説王」とあだ名を付けられるほどのやらかしぶりでした。
イヤイヤやっているので、業務に身が入りません。取引先からの頼まれごとや商品手配のミスなどは日常茶飯事。勝手に乗り回していた営業車で事故を起こし、会社で大問題になったことも。
訪問先のお店でトイレをお借りしたところ、営業所に「おまえのところの営業マンは、便所を借りて水も流さんのか」、なんてクレームが入る珍事件までありました。
しかしながら、最も責任を感じた事件は、当時最大手の広域取引先から、自分の怠慢がもとで、契約解除を突き付けられたことです。
このときは、会社一丸となって謝罪と特別条件を提示し、なんとか一件落着したのですが、もう会社にいられない、と本気で思いました。
連日の孤独な深夜残業。そこに所長が取引先から帰ってきました。
「なんだ、まだいたのか。送ってやるから、もう帰るぞ」
所長が車中での重い沈黙を破り、「もったいないぞ、今辞めるのは」と口にされたときは、正直驚きました。まだ、そんな意向は誰にも伝えていなかったからです。
「せっかくこんなイヤな経験をしたんだ、次に生かせるだろ。サラリーマンは、金を貰いながら現場で多くのことを学べる。若いうちの失敗はまだ許される、今のうちだぞ」
私は、涙ながらに得心しました。
「まあ、今回はお前の勉強代にしては、高くついた」と、疲れた微笑を浮かべておられた所長の横顔が、感謝とともに今でも忘れられません。

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