生涯通じて追い求めた理想の野球。「長嶋茂雄は、永遠に不滅です」。

6月3日に逝去された長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督。日本全国のファンやその偉業を知る人たちが、彼とのお別れを悼みました。

 

告別式では、巨人軍の山口寿一オーナーが、昭和を代表する詩人サトウハチローさんの詩の一部を引用し、話題になりました。その詩とは、『長嶋茂雄選手を讃える詩』。大の野球好きで巨人ファンであった詩人が、当時既にスター選手として大活躍していた長嶋選手の日々の努力に思いを馳せ、仕事に疲れて挫けそうな自分を鼓舞するために書いた詩です。

 

「ひとにやさしく/おのれにはきびしく/長嶋茂雄はこれなのだ(中略)

/出来るかぎり立派に/長嶋茂雄はそれだけを思っている/その他のことは何も思わない」

そして、詩人は万感の思いを込めて、歌をこのように結びます。

「自分をきたえあげて行く/長嶋茂雄のその日その日に/ボクは深く深く 頭をさげる」

 

私は、長嶋茂雄さんが現役時代にファンから贈られていた熱狂を知りません。しかしながら、当時の時代背景を考えれば、さもあらんとも思います。彼がプロ野球選手として歩み始めた1957年は、日本の高度経済成長時代の夜明け。多くの日本人が、勤勉さと努力のその先に、豊かな生活が待っていることを信じていました。

 

長嶋選手が日々見せる華麗なプレーも、ときには憤怒の形相で豪快にバットを空振りする姿も、当時の人々にとっては、挑戦すべき明日への貴重な活力だったのでしょう。彼のプレーには、そんなふうに観客を感情移入させる、不思議な魅力があったに違いありません。

 

長嶋選手のほかにも、当時の球界にはスター選手が多く活躍していました。ただ、彼のような視点でプロ野球を眺めていた選手は、当時は少なかったかもしれません。約10年前に放送された対談番組の内容を収めた本『ミスタープロ野球・魂の伝言「100年インタビュー」保存版/長嶋茂雄著・PHP研究所刊』を読んで、単なる人気者ではない彼の魅力の秘密に、触れられた気がしました。

 

インタビューの中では、盛んに「プロとして」「職業人として」という言葉が出てきます。その強烈なプロ意識は、全て観客やファンに向けられていました。勝敗の行方を超えて、どうすればお客さんが感動してくれるか。彼の本質は、若い頃からずっとエンターテイナーでした。

 

野球に芸術性と品格を持ち込み、世代を超えて夢をつなぐ、国民的文化としての理想を描いていたミスター。夢はいくつもの世代を経て、国内外を問わず、多くのすばらしい若い選手たちによって継承され続けています。(ちなみに、今回の表題に使った「長嶋茂雄は、永遠に不滅です」という一文は、前述でご紹介した本のあとがきにおいて、ご本人が記されたものです)