子ども時代は、なにかしら得意なものを見つけると、それだけで夢が見られたりするもの。その才能が、少しでも周囲から秀でていればなおさらのことです。
しかしながら大抵の場合、そんなに甘い夢は続きません。次第に人間関係が複雑になり、関わる社会が拡がってくると、自分が井の中の蛙であったことを痛いほどに思い知らされたりします。自分よりも豊かな才能を持つライバルの登場。才能の限界を感じるような出来事との遭遇。家族や社会からの過度な期待や干渉など。夢を諦めさせる要素は人生のあちこちに遍在しています。
一方で、そのような出来事に奮起してさらに階段を駆け上がる子もいますが、いずれにせよ、その時に感じた心の葛藤の記憶は、生涯忘れ得ぬ、ある種のきらめきと羞恥心に満ちているものです。
今回ご紹介する映画『ルックバック(押山清高監督/スタジオドリアン他製作、エイベックス・ピクチャーズ配給)』は、そんな青春時代への郷愁をも想起させるアニメ作品です。原作者は『チェーンソーマン』などの人気作品を持つ藤本タツキさんですが、原作漫画の持つ、静謐でありながら熱を帯びた独特な世界観を大切にしながらも、登場人物にさらなる躍動感を与えたことで、漫画とはひと味違う雰囲気を醸し出すことに成功している作品であると云えます。
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小学4年生の藤野は、得意の絶頂にいました。週刊の学年新聞に掲載中の4コマ漫画が人気だからです。周囲は彼女の才能を称賛し、本人もまんざらではない様子。
しかし、その絶頂を打ち砕く出来事が発生します。自分の4コマ漫画の横で、新しい漫画の連載が始まったのです。その緻密なタッチと大人びたシュールさを併せ持つ作品に、藤野は大いに衝撃を受けます。作者は名前しか知らない不登校の女の子、京本でした。
以来、京本に負けられない一心で、絵の勉強に没頭しますが、やがて卒業を迎える頃になり、漫画を突然諦める藤野。自身の才能に見切りを付けた瞬間でした。
卒業式の日、担任から京本の卒業証書を託された藤野は、嫌々ながら京本の自宅を訪れます。そこで運命的な出逢いが起きることなど、まったく想定外の藤野でした。
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