星の終焉に人生の美しさを見出した文筆家と、彼を愛する音楽家の葛藤の物語。

もしも、目の前の大切な人や家族、そして友人たちの顔がわからなくなる日が、生きているうちに訪れるとしたら。共有してきた大切な人生の思い出さえも、語り合えなくなる日が来てしまったら。

 

徐々に、「自分」が今までの自分でなくなっていく。その恐怖は計り知れないでしょう。ましてや、まだ気力体力が充実している若いうちに、そのような状況に陥ってしまったとしたら、絶望の度合いも、より大きいものに違いありません。若年性アルツハイマー型認知症とは、そうした病気です。

 

もしあなたが、若くして認知症に罹患してしまったら、あなたはご自身の人生の先に、どのような救いを求めるでしょうか。あるいは、逆にあなたの大切な人がそのような立場に置かれた時、あなたは彼に対して、どのように接したいと願いますか?

 

ふたりの思惑や方向性が一致する可能性は、かなり低いかもしれません。それでも、ふたりがお互いをより深く知ろうと歩み寄る姿勢は、双方の人生にとって、かけがえのないものとなるはず。今回ご紹介する映画『スーパーノヴァ(ハリー・マックイーン監督/BBCフィルムズ他制作、ギャガ他配給)』は、そのような人生の危機に直面した恋人同士の苦悩を、詩情豊かに描いた作品です。

 

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文筆家のタスカー(スタンリー・トゥッチ)と、ピアニストのサム(コリン・ファース)は、二〇年来の恋人同士ですが、タスカーの若年認知症への罹患を境に、ふたりの生活は一変します。

 

身体や認知機能が衰えてきているタスカーは、塞ぎ込むことが増え、彼を懸命に世話するサムも、ひとりで介護を抱え込むことの限界に、苦悩を深める日々です。

 

ふたりは、押し潰されそうな現実から逃れるかのように、キャンピングカーで湖水地方へと旅に出掛けます。サムの故郷でもある彼の地で、ふたりは懐かしい友人や家族に歓待されます。タスカーは、広大無辺な夜空を仰ぎ見ながら、そこに自らの人生の行方を、静かに重ね合わせるのでした。

 

一方、サムはタスカーの私物を手にします。そこには思いもよらぬタスカーの意思表明が。激しく動揺するサム。ふたりの旅路に、新たな節目が訪れつつあります。