ミナリの強さに重ねる移民家族の雑草魂。親から子へと、物語は引き継がれる。

私の父は中国大陸で生まれ、そこで幼年期を過ごしました。鹿児島出身の祖父母が旧満州に渡り、職を得て生活していたのです。

 

終戦の年、ソ連が旧満州に侵攻すると、祖父母家族は難民となり、塗炭の苦しみの逃避行を味わいました。そして、なんとか博多港まで辿り着いたのです。遠賀郡水巻町で、何もかも失ったところからの再出発でした。

 

姉ふたりを戦禍で失い、子どものなかで唯一生き残った父には、またあたらしい家族が増えました。当時幼かった兄弟姉妹は、成長して皆各々の家族を為し、今では子から孫へと、立派に血脈を繋いでいます。言葉に尽くせぬ感謝とともに、命というもののしぶとさに、神秘の念すら覚えます。

 

今回ご紹介する映画『ミナリ(リー・アイザック・チョン監督/A24製作・配給)』は、韓国からの移民家族が、新天地とする80年代アメリカで、必死に根を張ろうと奮闘する物語です。ご自身の命の系譜に想いを馳せつつ、ご覧になられてもよいかもしれません。

 

ちなみに「ミナリ」とは、香味野菜であるセリの韓国名です。雑草のようにたくましく根を張り、二度目の旬が最も美味とされるミナリ。まさにこの移民家族の物語に相応しいタイトルです。

 

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韓国系移民のジェイコブは、家族を連れてアーカンソー州に移住してきました。格安の広大な農地と、トレーラーハウスを手に入れたからです。ジェイコブは、ここで韓国野菜の農園を作り、ひとヤマ当てるつもりです。

 

しかし、妻のモニカは不満顔。相談もなく、勝手に物事を進める夫に、危うさを感じています。7歳の長男デビッドは、心臓に生まれつきの疾患があります。農園は街の病院から遠く離れていて、万が一のことを考えると心配でなりません。

 

モニカは、別の土地での生活を希望しますが、それが無理ならと、子育てを助けてもらうため、母親のスンジャを韓国から呼びます。英語が話せず、粗野なおばあちゃんに、子どもたちはなつきません。しかし、彼女の存在は、次第に家族の潤滑油となっていくのです。

 

一方、ジェイコブの農園は順調には程遠く、挙句の果てには水道代が払えず、家は断水状態に。モニカの不満が頂点に達した時、さらなる不幸が家族を襲います。