世界中の祭日のなかで、クリスマスほど、物語や映画の素材として使われる日はありませんね。はたしてこの祭日のどこに、私たちはこうも魅かれ続けているのか。歳を重ねた今でも、この季節になると考えてしまいます。
今回ご紹介する映画『大停電の夜に(源孝志監督/アスミック・エース配給)』は、2005年公開の作品ですが、クリスマスの奇跡を扱ったものの中では、いまだに色褪せない、秀逸な輝きを感じさせる物語のひとつです。
あるクリスマスイヴの夕方、関東平野に謎の巨大な物体が落下します。都内に電源を供給していた変電所の付近に落ちたため、都心の電力は一気にダウン。地下鉄や電車をはじめ、交通機関は麻痺状態に。ホテルではエレベーターの中に人が閉じ込められ、急いで家路に向かおうとする車列は、道路の大渋滞を引き起こします。
とはいうものの、人々は意外に冷静。家庭ではロウソクや行灯に灯を点して、日常とは違う雰囲気を楽しんだりもしている様子。可愛らしいキャンドルを売っているお店には若い女性達が群がり、めずらしく大繁盛しています。
そんな東京の非日常的な聖夜。街角では、悩ましい心を抱えた十二人の男女が、人生のささやかな節目に遭遇し、頼りないロウソクの灯のような気持ちを揺らめかせていました。
過去の恋人を待つ開店休業状態のジャズバーのマスター(豊川悦司)と、密かに彼を想うキャンドルショップの女主人(田畑智子)。
死を前にした父から衝撃的事実を聞かされた男(田口トモロヲ)と、彼の不倫の影に傷つき、離婚を思い悩む妻(原田知世)。
不倫相手の上司に嫌われてしまい、失望を隠さない女(井川遥)と、彼女とふたりきり、閉じ込められたエレベーターの中で、心を通わせていくホテルの中国人研修生(阿部力)、等々。
まばゆい灯りのなかでおざなりにしていた心の綾が、暗やみでほのかに揺らめく小さな灯のもとに浮かび上がってきた時、彼らは、自分が信じるもの、心を許し合うべきものの存在に気づき、それぞれのギフトを手にするのです。
クリスマスの恩恵。それは他者との絆にあらためて気づき、感謝する時間なのかもしれませんね。
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