ワインに人生を見出した青年の挑戦。見守るのは父親の信念。そして母親の愛。

親子の関係ほど厄介で複雑なものはありませんね。

子どもは、親を喜ばせることに幸福を感じながら育ちますが、成長するにつれて、親の干渉ほど鬱陶しいものはないと思いはじめます。親は親で、子どもの人生に幸多かれと願うものの、微妙に価値観のズレを認めると、他人との関係以上に抵抗を覚え、苛立ったりするもの。

 

今回の映画『ワインは期待と現実の味(プレティス・ペニー監督/ネットフリックス配給)』は、まさに親子の気持ちのすれ違いと、その後の和解を、ひそやかな感慨のうちに描いている佳作です。

 

テネシー州メンフィスで両親とともに暮らすイライジャ(ママドゥ・アティエ)は、人生の岐路に立たされていました。

 

父親のルイス(コートニー・B・ヴァンス)は、イライジャの祖父から受け継いだBBQ料理のレストランを、忙しく切り盛りする毎日。地域に根差すこの人気店を誇りに思い、いずれは息子に引き継ぐことが使命だと信じています。イライジャも、ルイスの気持ちを慮り、毎日お店を手伝っていますが、今ひとつ真剣になれません。なぜなら、彼には家業よりも大切に思えるものがあったからです。それが、ワインの世界でした。

 

一本のワインが持つストーリーの豊かさに魅かれるイライジャ。様々に存在するテイストや香り。そして産地とその歴史。ワインから拡がる未知の世界に、人生の可能性を重ねあわせていたのです。

 

彼はガールフレンドに、ワインソムリエの最高峰、「マスターソムリエ」資格への憧れを語りますが、自分には無理だと諦めています。しかし、彼女の「言い訳を考えるより、試験のほうが簡単では?」という言葉に発奮し、マスターソムリエを育成する専門学校への入学を決意するのです。

 

イライジャの決心に不満を隠さないルイスとは対照的に、母親のシルヴィア(ニエシー・ナッシュ)は大喜び。献身的に応援する母親に背中を押され、無事入学を果たすイライジャでしたが、その前途は想像以上に過酷なものでした。

 

彼は、志なかばで最愛の母の死に直面します。それでも勉強に集中しようと頑張るイライジャ。テイスティングする赤ワインの芳醇な味わいに、在りし日の母の姿を想い、とめどなく涙をこぼすイライジャ。印象に残るシーンです。