「正しい資質」とはなにか? 米宇宙開発黎明期の光と影を描いた不朽の名作!

映画が大好きです。

人間という不可思議な存在を肯定的に描き、美しくも力強いメッセージで、観客の心を新たな可能性へと解き放つ作品に、今までいくつも出逢ってきました。そんなポジティブ志向で魅力的なキネマ作品を、不定期ではありますが、独断と偏見で紹介していきます。

※映画の話題は、これまでもこのブログの中で何度か取り上げてきましたが、今後は『ポジキネワァルド』というブログカテゴリを付けて不定期連載する予定です。

 

50~60年代アメリカの宇宙開発黎明期を描いた作品『ザ・ライトスタッフ(83年米/F・カウフマン監督)』は、マーキュリー計画に参加した7人の宇宙飛行士、『マーキュリーセブン』が主役です。彼らは厳しい試験により選ばれた、米海空軍や海兵隊が誇る究極のエリートばかりでした。

 

この男たちと比較して描かれる陰の主役がもうひとり。

その名は、チャック・イエーガー音速ジェット試験機ベルX-1を駆り、世界初のマッハ(音速)の壁を破った、伝説のテストパイロット。元々マーキュリーセブンの面々も、彼の栄誉に憧れて宇宙飛行士を志したのですが、その後の時代の流れは、彼ら英雄の間に、あきらかな陰影の濃淡を落としていくのです。

 

地球の重力の膜を突破し、頼りないポッドの中で死の恐怖に直面しながらも、功名を掴もうとする気鋭の若者達。一方で、今や誰にも注目されなくなった航空機の技術革新を信じ、「誰よりも速い男」として君臨し続けるかつてのヒーロー。この対極的構図には、神話的な色調すら感じてしまいます。果たして彼ら英雄が身につけていた「ライトスタッフ(正しい資質)」とはなんだったのか。映画を観終わった後で、ゆっくりと問うに足るテーマです。

 

なによりも、マーキュリーセブンやイエーガーの、個性的且つ強烈なキャラクターに惹かれます。個人的には、名優スコット・グレンが演じるアラン・シェパードが、とにかく魅力的に映りました。あれだけ天真爛漫でさっぱりした男だったから、初のアメリカ人宇宙飛行士の栄冠を手に入れられたのかもしれません。

 

今では、軍人よりも科学者のほうが、より宇宙へと打ち上げられている時代ですが、それでも宇宙飛行士の最高の資質は、昔とさほど変わりません。曰く「笑顔とユーモアを絶やさない器量」。最終的には、これに尽きるようです。3時間を超える尺ですが、あっという間の面白さです。