最近、あるテレビドラマを観て、「故郷とは一体何なのだろう」という問いを抱きました。そのドラマとは、NHK総合で放送された『母の待つ里』という作品です。浅田次郎さんの小説(新潮社刊)が原作で、前述の問いに対するさらなるヒントを得たかったので、そちらも早速読んでみました。
物語の舞台は、東北地方にある過疎地域のちいさな村。どこにでもあるような村ですが、実はここは、カード会社がプレミアム会員のために用意した仮想の故郷。「ふるさと」を知らない都会の富裕顧客向けに、「老いた母親が待つ故郷への里帰り」体験を提供してくれるテーマパークなのです。この村に、人生の黄昏期に差し掛かろうとする三人の男女が、それぞれ訪れます。悩みが多い都会生活での傷を癒してくれる母親。偽りの交流のなかで、お互いのまごころが交錯していきます。
小説では、このサービスがアメリカ発のビジネスであることを匂わせるのですが、実際にどうなのか調べてみたところ、そのようなものは見つかりませんでした。
但し、アメリカやヨーロッパ各国に存在する事例として、いくつかの『認知症ビレッジ型施設※』というものがあることを知りました。高齢の認知症患者の、症状悪化を抑えるための生活施設です。
この施設には、患者たちにとって、かつての懐かしい生活を想起させる環境が整っています。建物や公園、お店のなかに至るまで、患者たちがまだ若くて自信に満ち溢れていた頃の、生活習慣の記憶を取り戻せるようにデザインされており、それが彼らの行動力やコミュニケーション能力を回復させる手立てになるのだとか。この治療方法は、「リミニセンス(回想)療法」と呼ばれています。
認知症が進行する原因のひとつとして、社会的孤立や疎外感による心理的ストレスがあるとされています。つまり、今の世の中で自分は必要とされていないという想い。しかしながら、この施設生活で若かりし頃の自分自身が帰ってくるのであれば、それは「再び世界に受け入れられた」と、そんな気持ちにもなるのではないでしょうか。
故郷の概念に求めるものは、人それぞれ違うと思います。とはいえ、最も根底にあるものは、「ありのままの自分を受け入れてくれる」という揺るぎない信頼、そして安心感。そう感じさせる場所が、その人にとっての故郷なのかもしれません。
※認知症ビレッジ型施設:オランダの認知高齢者向け養護施設『De Hogeweyk』や、フランスの認知症ケアハウス『Alzheimer’S Village』が有名。

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