WHO=世界保健機関が、新型コロナ禍における緊急事態の終了を宣言してから、間もなく2年が経過しようとしています。私たちの生活は、一見コロナ禍以前の日常生活を取り戻したかのようにも見えますが、そんなことはありませんね。他者との物理的接触を抑制し続けた3年間では、オンラインサービスの普及や非接触型キャッシュレス決済の加速など、生活や働き方に密着した新技術の定着が進み、それが私たちの日常的な行動様式そのものに大きな変化をもたらしました。
行動が変われば意識も変わる。
多くの方は、多少なりともその変化を実感されたのではないでしょうか。コロナ禍以前には「是」とされてきた考え方や働き方が、今ではどうにも取り戻せない。その意識の変化のはざまで悩んでいる人は、意外と多いかもしれません。実は私もそのひとりです。しかしながら、漠然とした不安の正体が具体的にどのようなものなのか、自分ではなかなか言語化できずにいました。
宇宙開発における環境整備事業を手掛ける株式会社スペースデータ創業者の佐藤航陽さんは、最近上梓された著書『ゆるストイック―ノイズに邪魔されず1日を積み上げる思考(ダイヤモンド社刊)』のなかで、前述の変化と不安をわかりやすく表現されていました。
コロナ禍以前の世界に求められていた価値観の多くは「成長・競争・勝利」という概念に支配されていましたが、その後の渦中では、あらゆる社会的機能が停滞を余儀なくされ、そのなかで精神的安定を保つために「がんばらなくていい」というメッセージが拡がりました。
日常の経済活動が正常化した現在、どちらの立ち位置が今後の自分の生き方にとって相応しいのか。成長はしたいけど競争はもうムリ。けれど流されるままには生きたくない。佐藤さんも、今後の人生の指針に悩み、揺れ動いていたそうです。
本書の表題である「ゆるストイック」は、その後の佐藤さんが辿り着いた新境地を示す造語です。他者とは競争しないし比較もしない。差異を尊重し、自分の価値観を押し付けない。ただひたすら黙々と、人間的成長そのものを目的にして研鑽を続ける。これが「ゆるストイック」の基本理念です。
30代前半くらいまでの若者向けに書かれた本だと思われますが、佐藤さんが新境地に辿り着くまでの思考の変遷も垣間見れて、とても興味深い内容でした。
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