私の職場(保険代理店)には、「あるく保険の参考書」とでも評したいくらい、商品知識や使い方に精通している同僚がいます。
「保険はむずかしい」とは、よくお客さまから聞かれる言葉ですが、実際に保険(商品および使い方のルール)とその周辺知識は、かなり広範囲で且つ膨大なものです。実は保険会社の担当者でさえ、代理店から尋ねられて即答出来ないことは珍しくありません。そんな質問でも、時に彼はスラスラと難なく答えてくれたりします。
その原動力は、「わからないことをそのままにしたくない」という彼自身の気質にも起因するのでしょうが、とにかく疑問が生じたら、まずは自分の頭や手を使って、回答を導き出そうとする姿勢にあるのだと考えられます。多少時間がかかっても、自分で約款やルールブックを丹念に読み解く。そして何度も検証を試みる。その日々の積み重ねが、彼の知識量と考える力を支えているのでしょう。わからないことはわかる人にすぐ尋ねる(あるいは任せる)、そんな安易な解決法に慣れてしまっている私にとっては、なかなか簡単に真似の出来ないことです。
昨年刊行された小説『宙わたる教室(伊予原新著/文芸春秋刊)』(同本原作のドラマがNHK総合にて放送中)は、新宿区の定時制高校を舞台にした青春小説です。ちょっと風変わりな物理教師と、過去に傷を持ち、今なお生きづらさを感じている生徒たちが、火星の特殊なクレーターの謎に迫る研究で、学会発表を試みるというストーリーなのですが、現在のさまざまな社会問題を背景にしつつ、「学び」の本質とはなにか、学び続ける姿勢が人生になにをもたらすのかという問題提起もわかりやすく描かれていて、大変考えさせられる内容でした。「地球惑星科学」がモチーフとなっているので、普段から宇宙に関心を持っている人にとっては、さらに楽しめるお話です。
教師は、授業中に何度も生徒を諭します。「(学びから得られる理解は)自動的にはわからない」と。
「手を動かすんです。何度も何度も書く。やみくもにでも式をいじくり回す。いろんな図をしつこく描いてみる。そうしているうちに、わかった、という瞬間が来ます。必ず」
人工知能技術も進み、今後の学びの風景も変わってゆくのでしょう。しかしながら、本物の学びというものは、好奇心を保ち、解決に向けて能動的に動くという態度からしか得られないのかもしれません。
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